
はじめに―私がF1タイヤの謎に気づいたきっかけ
2017年当時、解説者が「今回のレースではハイパーソフト、ウルトラソフト、スーパーソフト、ソフト、ミディアムの5種類が用意されています」と説明しているのを聞いて、「え、何それ?」と混乱したのを今でも覚えています。
ところが2019年シーズンから突然、タイヤが「ハード(白)」「ミディアム(黄)」「ソフト(赤)」の3色だけになったんですよね。
最初は「わかりやすくなった!」と喜んでいたんですが、よく調べてみると、実は裏側には複雑すぎる"真実"が隠されていたんです。
今日は、そんなF1タイヤの3色システムの裏側にある、ピレリの戦略と複雑なコンパウンド管理の真実について、私の体験談も交えながら詳しくお話しします。
2018年までの混乱期―7種類のタイヤ名に翻弄されたファンたち
あの頃のタイヤ名の複雑さは異常でした
2018年までのF1タイヤシステムは、正直言って「カオス」でした。
ピレリは以下のような7種類ものドライタイヤを用意していたんです。
- スーパーハード(オレンジ)
- ハード(青)
- ミディアム(白)
- ソフト(黄)
- スーパーソフト(赤)
- ウルトラソフト(紫)
- ハイパーソフト(ピンク)
各グランプリには、この中から3種類が持ち込まれるんですが、サーキットごとに選ばれるコンパウンドが違うんですよね。
例えば、モナコではウルトラソフト、スーパーソフト、ソフトが選ばれる一方で、モンツァではスーパーハード、ミディアム、ソフトが選ばれる、といった具合です。
私自身、当時はレースを見ていても「今このドライバーが履いているのはスーパーソフト?ウルトラソフト?」と混乱することがしょっちゅうでした。
テレビの画面に映るタイヤの色を一生懸命確認して、「あ、紫だからウルトラソフトだ!」みたいな感じで必死に追いかけていました。
ファンだけじゃない、チームも混乱していた
実は、この複雑なシステムに頭を悩ませていたのは観戦者だけではありませんでした。
チームのストラテジストたちも、各サーキットで持ち込まれるコンパウンドの相対的な性能差を把握するのに苦労していたと言われています。
「今回のソフトは前回のミディアムくらいの硬さかな?」みたいな感じで、サーキットごとに基準が変わってしまうので、データの蓄積や比較が非常に難しかったんですね。
2019年の大改革―3色システムの導入とその狙い
シンプルに見えて、実は...
そして2019年、FIAとピレリは大胆な決断をしました。
タイヤの呼び方を「ハード(白)」「ミディアム(黄)」「ソフト(赤)」の3種類だけに簡素化したんです。
最初にこの変更を知ったとき、私は「やっと覚えやすくなった!」と思いました。
実際、レース観戦はとてもわかりやすくなりました。
どのグランプリでも、一番硬いのが白、中間が黄色、一番柔らかいのが赤。これだけ覚えておけば戦略が読めるようになったんです。
でも、ここで疑問が湧いてきました。
「じゃあ、コンパウンド自体も3種類になったの?」
実は5種類、いや、20種類以上?
実はここに、ピレリが隠した「複雑すぎる真実」があります。
表向きは3色に簡素化されましたが、実際にはピレリは5種類のコンパウンド(C1〜C5)を用意しています。
C1が最も硬く、C5が最も柔らかいという構造です。
そして各グランプリには、この5種類の中から連続した3つが選ばれます。例えば:
- 鈴鹿(日本GP): C1(ハード)、C2(ミディアム)、C3(ソフト)
- モナコGP: C3(ハード)、C4(ミディアム)、C5(ソフト)
つまり、モナコの「ハード(C3)」は、鈴鹿の「ソフト(C3)」と全く同じコンパウンドなんです!
さらに驚くべきことに、Redditの議論によれば、ピレリは舞台裏で20種類以上のコンパウンドを開発している可能性があるとも言われています。
どのサーキットでも同じように機能するタイヤを作るために、細かい調整を繰り返しているんですね。
なぜこんなに複雑なシステムにしたのか?
サーキット特性への対応
これには明確な理由があります。F1のサーキットは、それぞれ全く異なる特性を持っているからです。
例えば:
- モナコ: 低速コーナーが多く、タイヤの発熱が難しい。柔らかいコンパウンドが必要
- モンツァ: 高速サーキットで、タイヤへの負荷が大きい。硬いコンパウンドが必要
- シンガポール: 市街地コースで路面が滑りやすい。中間的なコンパウンドが適している
もし全サーキットで同じ3種類のコンパウンドを使ったら、あるサーキットではタイヤが全く機能しない、という事態が起きてしまうんです。
戦略の多様性を保つための工夫
もう一つの重要な理由は、「戦略の多様性」です。
私が2023年のアメリカGPを観戦したとき、これを実感しました。
このレースでピレリは通常よりも一段階硬いハードタイヤ(C1)を持ち込んだんです。
その結果、ハードとミディアムの性能差が大きくなり、1ストップ戦略が選びにくくなりました。
チームは2ストップを選ぶか、それとも冒険して1ストップで行くか、という難しい判断を迫られたんです。
こういう「戦略の幅」がレースを面白くしているんですよね。
3色システムのメリットとデメリット
メリット:観戦者には圧倒的にわかりやすい
私のようなファンにとって、3色システムの最大のメリットは「わかりやすさ」です。
レースを見ているとき、タイヤの色だけで、
- 「あ、あのドライバーはソフトタイヤだからペースが速いはずだ」
- 「でももうすぐタレてくるから、ハードタイヤのドライバーが追いついてくるかも」
という戦略が一目で理解できるようになりました。
初心者の友人をレース観戦に誘ったときも、「白が一番持ちがいいタイヤ、赤が一番速いタイヤ」と説明するだけで、すぐに楽しんでもらえるようになりました。
デメリット:実は同じ色でも中身が違う
一方で、デメリットもあります。
それは「サーキットごとの違いが見えにくくなった」ことです。
先ほど説明したように、モナコの白いハード(C3)と鈴鹿の白いハード(C1)は、全く別物です。
でも見た目は同じ白なので、画面だけを見ていると「前回のレースと同じ戦略かな?」と勘違いしてしまうことがあるんですよね。
実際、私も最初の頃は「なんで今回はハードタイヤがこんなに持たないの?」と疑問に思うことがありました。
後で調べたら、実はそのレースではC2が「ハード」として使われていて、前回のC1ハードよりも柔らかかった、ということに気づいたんです。
ピレリが直面する2026年の新たな挑戦
タイヤサイズの変更で複雑さが増す
さらに話は複雑になります。
2026年には大幅なレギュレーション変更があり、タイヤのサイズが小さくなるんです。
- フロントタイヤ: 25mm幅が狭くなる
- リアタイヤ: 30mm幅が狭くなる
ピレリはこの新しいサイズに合わせて、構造もコンパウンドも一から開発し直さなければなりません。
しかも、2026年のマシンは空力特性も大きく変わるため、タイヤへの負荷のかかり方も変わってくるんです。
C6コンパウンドの廃止という決断
面白いことに、ピレリは当初2026年用に最も柔らかいC6コンパウンドを開発していたんですが、最終的にお蔵入りにしました。
理由は「性能差の確保」です。
テストの結果、C6とC5のタイム差が他のコンパウンド間の差よりも小さく、戦略的な多様性を生み出せないことがわかったんです。
このエピソードからも、ピレリがいかに細かく性能管理をしているかがわかりますよね。
タイヤ戦略が生み出すドラマ―私が見た名勝負
2019年イギリスGPのハミルトンの奇跡
3色システムが導入された2019年、私が最も印象に残っているのはイギリスGPです。
ルイス・ハミルトンは終盤、フロントタイヤがパンクするという大ピンチに見舞われました。
ピットに戻って新しいタイヤを履いたものの、すでに周回遅れ寸前。
でも、彼は残り数周を驚異的なペースで走り切り、見事優勝を果たしたんです。
このレース、ハミルトンは最後にミディアム(黄色)タイヤを履いていました。
もしこれがハード(白)だったら、あの追い上げはできなかったかもしれません。
タイヤ選択が勝敗を分けた瞬間でした。
2023年のレース観戦で感じた戦略の奥深さ
最近では、2023年のレースをサーキットで観戦する機会がありました。
グランドスタンドから見ていると、同じラップタイムで走っている2台のマシンでも、タイヤの色が違うと全く異なる戦略を取っているのがわかるんです。
赤いソフトタイヤの車は攻撃的にプッシュしていて、白いハードタイヤの車は慎重にタイヤをいたわりながら走っている。
そして数周後、ソフトタイヤの車がピットインし、ハードタイヤの車がトップに立つ。
この「入れ替わり」のダイナミズムが、F1の魅力なんだと改めて感じました。
ファンとして知っておきたいタイヤ知識
レース前にチェックすべきこと
私がレースを見る前に必ずチェックするのが、「今回のレースではどのコンパウンドが選ばれているか」です。
例えば、鈴鹿でC1、C2、C3が選ばれているなら「今回は比較的硬めのコンパウンドだから、タイヤマネジメントが重要になりそうだな」とわかります。
逆にモナコでC3、C4、C5なら「柔らかいコンパウンドだから、タイヤのグリップはいいけど、すぐにタレてくるかもしれない」と予想できます。
この情報は、F1公式サイトやピレリの公式発表で確認できます。
レース前にちょっと調べておくだけで、観戦の楽しさが何倍にも増えますよ。
タイヤの「色」だけでなく「履歴」にも注目
もう一つのポイントは、タイヤの「履歴」です。
F1では、予選で使ったタイヤを決勝でも使うことができます。
なので、「あのドライバーは予選でソフトタイヤを使ったから、決勝スタート時のタイヤは新品じゃないんだな」という情報も重要になります。
実際、2024年のレースでは、予選で使ったソフトタイヤでスタートしたドライバーが、序盤でタイヤがタレてしまい、早めにピットインを余儀なくされる場面がありました。
こういう「タイヤの履歴」まで追いかけると、さらにレースが面白くなります。
ピレリの技術力と今後の展望
見えない部分での技術革新
3色システムは表面的には「簡素化」ですが、裏側ではピレリの技術力が光っています。
各サーキットの気温、路面温度、路面の粗さ、コーナーの数、速度域などを考慮して、最適なコンパウンドを選ぶ。
しかも、3つのコンパウンド間でバランスの取れた性能差を確保する。
これは並大抵の技術力ではできません。
表面的には同じように見えても、その裏には膨大な計算とテストが隠されているんですよね。
2026年以降の未来予想
2026年には新しいタイヤシステムが導入されますが、基本的なカラーリング(ハード=白、ミディアム=黄、ソフト=赤)は維持されることが発表されています。
ただし、タイヤのサイズ変更に伴い、コンパウンドの特性は大きく変わる可能性があります。
小さくなったタイヤで同じレベルのグリップを確保するには、より柔らかいコンパウンドが必要になるかもしれません。
個人的には、2026年の開幕戦がどんな戦略になるのか、今から楽しみで仕方ありません。
新しいタイヤシステムが、F1の戦略にどんな変化をもたらすのか。
きっと予想外の展開が待っているはずです。
まとめ―3色の裏に隠された「複雑さ」こそがF1の魅力
F1のタイヤが3色になったのは、一見すると「簡素化」のためでした。
でも実際には、その裏には5種類(場合によっては20種類以上)のコンパウンドを使い分ける、ピレリの高度な戦略と技術力が隠されていたんです。
この「シンプルに見えて、実は複雑」というのが、まさにF1の魅力だと私は思います。
初心者でも色だけで戦略が理解できる。
でも深く知ろうとすれば、サーキットごとのコンパウンド選択、タイヤの履歴、気温との相関など、いくらでも掘り下げられる。
この「入口の広さ」と「奥の深さ」の両立が、F1を50年以上も世界最高峰のモータースポーツとして君臨させている理由なのかもしれません。
次にF1を観戦するときは、ぜひタイヤの色に注目してみてください。
白、黄色、赤の3色が、どんな戦略のドラマを生み出すのか。そして、その裏にどんな技術と工夫が隠されているのか。
そう考えると、レースがもっともっと面白くなりますよ。
この記事が参考になったら、ぜひ次回のレース観戦に活かしてみてください!