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フェラーリはなぜ「戦略ミス」を犯すのか?データと組織構造から読み解くF1の勝敗を分ける要因

F1のレースを見ていると、スクーデリア・フェラーリのピットストップのタイミングやタイヤ選択に対して「なぜその戦略を選んだのか?」と疑問に思うファンは多いのではないでしょうか。

SNSやニュースでは「ストラテジストのミス」として片付けられがちですが、F1テクノロジーの観点から分析すると、問題はそう単純ではありません。

現代のF1において、戦略の決定は個人の直感ではなく、膨大なデータと複雑な組織の意思決定プロセスによって行われています。

この記事では、フェラーリが戦略的な困難に直面しやすい理由を「データ相関」「組織文化」「マシン特性」の3つの視点から構造的に紐解いていきます。

シミュレーションと現実路面の「データ相関」のズレ

フェラーリの戦略が裏目に出る大きな要因の一つが、事前シミュレーションと実際のサーキットにおけるデータの「ズレ(相関問題)」です。

現代のF1マシン、特に昨年までのグラウンドエフェクトカーは、タイヤの「作動ウィンドウ(最もグリップを発揮する温度帯)」が非常に狭く設定されています。

ファクトリーの巨大なシミュレーターや事前の計算上では「この周回数ならこのタイヤが最適だ」というデータが出ていても、実際のレースでは以下の要素で状況が秒単位で変化します。

  • 路面温度の急激な変化
  • 他車の走行によるラバーの乗り具合(トラックエボリューション)
  • 乱気流(ダーティエア)の中を走ることによる予期せぬタイヤの過熱

事前データへの依存度が高すぎると、現場で急激な変化が起きた際、臨機応変な対応(プランBへの移行)が遅れる原因となります。

レッドブルやマクラーレンが現場のドライバーの感覚を即座に戦略に反映させる一方で、フェラーリはデータと現場のすり合わせに時間を要する場面が過去に多く見られました。


ピットウォールでの「意思決定プロセス」と組織文化

次に注目すべきは、ピットウォールにおける意思決定のスピードです。

F1の戦略は、データエンジニアが計算し、チーフストラテジストが方針を固め、レースエンジニアを通じてドライバーに伝達されます。

フェラーリはイタリアの誇りとも言える国民的チームであり、そのプレッシャーは他のチームとは比較になりません。

かつてのフェラーリの内部には、ミスを恐れるあまり責任の所在を曖昧にしたり、保守的な判断に逃げたりする「ブレーム・カルチャー(責任追及の文化)」があったと指摘されています。

これが「アンダーカット(他車より先にピットに入り順位を逆転する戦術)」や天候急変時の「ギャンブル的な決断」を躊躇させる要因となっていました。

しかし、フレデリック・バスールがチーム代表に就任して以降、この組織構造は「ノーブレーム・カルチャー(失敗から学び、個人を責めない文化)」へと明確に改革が進められており、最近ではピットウォールでの意思決定のスピードと正確性が劇的に向上しつつあります。


すけろく

そういえば、チームメイトの順位を変えるのも判断遅すぎて、デグラデーションが酷すぎて無意味だった事が何回もあって見てて地味にきつかったです。

「戦略ミス」を誘発してしまうマシン特性

そして見落とされがちなのが、「マシンの特性」そのものが戦略の選択肢を狭めているという事実です。

過去数年のフェラーリのマシンは、「予選での一発の速さ(ピークパフォーマンス)」に優れる一方で、決勝レースでは「タイヤのデグラデーション(劣化)」が激しいという傾向がありました。


タイヤが持たないことの弊害

戦略の幅は「タイヤを長く持たせられること」で初めて広がります。

タイヤの摩耗が早いマシンでは、オーバードライブを避けるために早めのピットインを強いられ、結果的に相手チームの戦略に対して「後手」を踏むことしかできなくなります。

つまり、「戦略が悪かった」ように見えて、実は「タイヤに厳しいマシン特性のせいで、そもそも取れる戦略の選択肢がなかった」という技術的な制約が背景に隠れているケースが多いのです。

そういえば、2025年シーズン中もよくラジオでシャルルが「マシンの調子はいいよ」って言っているのに、チームはBOX(PITINせよ)って連発しているシーンが多かったように思います。

ドライバー的には大丈夫と思っていても、データではもう持たないってわかっていたからなのかもしれませんね。

【まとめと2026年への展望】

フェラーリの戦略問題は、決して特定の誰かが無能だから起きているわけではありません。

「事前データと現実の誤差」「巨大組織ゆえの意思決定の遅れ」、そして「タイヤマネジメントに苦しむマシン特性」という3つの要素が複雑に絡み合った結果です。

現在、チームはデータ解析の精度向上と組織改革によって、これらの課題を着実に克服しつつあります。

そして、いよいよ本格始動する2026年の新レギュレーションでは、マシンの軽量化と「アクティブ・エアロ」の導入により、タイヤへの負荷や空力特性が根本から変わります。

ただ心配なのは、アクティブエアロはタイヤに厳しいというお話もちらほら聞くのでもやもやする事も事実です。


この劇的な変化の中で、フェラーリの戦略はどう進化するのでしょうか?

2026年の新規定がもたらすマシンの技術的な変化と、それがレース展開に与える影響については、以下の記事で詳しく図解・解説しています。ぜひ併せて読んでみてください。

F1用語豆知識

ホモロゲーション

パーツが規定に適合しているという正式な承認手続きです。

コスト削減のため、一度承認された部品はシーズン中に変更できない「凍結」期間が設けられることが多く、開発の自由度と公平性のバランスを保つ仕組みです。

  • この記事を書いた人

すけろく

F1テクノロジー&未来予測アナリスト

【自己紹介】 F1を「世界最高峰の技術博覧会」として愛するモータースポーツ・マニア。 2026年の新レギュレーション導入に伴う勢力図の変化や、パワーユニット(PU)開発競争、ドライバー市場の裏側を独自の視点で徹底考察しています。 ニュースの速報だけでなく、「なぜそうなったのか?」「次はどうなるのか?」という深掘り記事をお届けします。当ブログ「QOLUP.tech」では、F1を通じて週末の質(Quality of Life)を高める情報を発信中。

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